当社のレーザー組織血液酸素モニターは、血液量の測定原理としてベール-ランバート法( Modified Beer-Lambert Law)を基にしています。この方法では絶対値を得ることができず、空間分解法(Spatially-resolved Spectroscopy)では絶対値を得ることができるとの報告があります。ここではその理由について説明いたします。
ベール-ランバート法でも空間分解法でも測定している物理量はレーザー光(またはLED光)の受光強度です。生体組織に照射されたレーザー光が生体内で散乱、吸収され、照射点から数cm離れた点で受光したときの光強度です。両測定法ともに光の強度しか測定していないのに、片方の理論では絶対値が得られ、もう一方では絶対値が得られないのはなぜでしょうか。その理由は仮定の数にあります。
生体組織での散乱と吸収に関わる未知数を3つとした場合、測定には3波長のレーザー光を用います。ベール-ランバート法では下記(1)式が、3波長による方程式として3本得られます。
I = ηIo exp [( -αVo – βVd)L’ – μs・L] (1)
ここで未知数は、1)酸素化血液量、2)脱酸素化血液量、3)生体組織の散乱係数, μs, です。3種類のレーザー光の波長が互いに近接している場合には、それぞれの波長で散乱係数が等しいと仮定しています。この3本の方程式から、酸素化血液量 Vo・L’ と脱酸素化血液量 Vd・L’ が求められます。ここで光路長 L’ は不明なので血液量の絶対値が求められない、とされています。
一方、空間分解法では照射点から距離の異なる2点(r1, r2)での受光強度を測定し、その関係から血液量を算出しています(Fig.9)。
μa x μs ≈ (ΔA/Δr – 2/r) (2)
ここで μa は生体組織での光の吸収係数で、生体組織自体の吸収がなければ全酸素化血液量と全脱酸素化血液量の合計、μs は散乱係数、Aは光の減衰、Δr = r2 – r1、です
3)。波長の異なるレーザーで受光強度を測定し、それらの関係から Vo と Vd を求めます。ただし、μsの値が未知であればμaは得られません。この状態はベール-ランバート法で L’ が未知数であることと同じです。しかし、空間分解法では μsの値を一定値、例えば1、と仮定し、仮定を追加しています。
生体組織では、照射-受光点の距離に比べて、実際にレーザー光が通過する距離は長くなります。これはレーザー光が受光されるまでに生体組織で何度も散乱されるためです。つまり、光路長は散乱係数の関数です。従って、μs の値をすべての測定波長で一定値と仮定することは、光路長を一定値と仮定することと同等です。すなわち、ベール-ランバート法で光路長 L’ を実際の照射点と受光点の距離の、例えば4倍、と仮定することと同じです。空間分解法ではμsの値は各波長で同じであるという仮定に加え、さらに値自体を代入するという仮定の追加により、絶対値が得られるとしています。L’に値を代入すれば、ベールーランバート法でも絶対値を得ることが可能になります。
当社製品のBOMシリーズは2受光方式を採用しております。単純に2点間の受光強度の傾きから血液量を演算するのではなく、各点での血液量を算出した後の差分から血液量を算出しています
4)。
仮定では、測定波長の値が互いに近接していれば各波長間での散乱は等しい、としていますが実際にはわずかな差があり、受光強度で演算するとその差による血液量測定値のオフセット,OS,が生じます(Fig.10)。従って、血液量として算出した後の差分、(V2 – V1)/(r2 – r1), を用いることでオフセット分を除いた値を得ることができます。