レーザー組織血液酸素モニター OMEGAMONITOR BOM-L1TRW & BOM-L1TRSF

測定原理

測定原理

酸素化赤血球(または酸素化ヘモグロビン)と脱酸素化赤血球(または脱酸素化ヘモグロビン)の光吸収スペクトルは異なっており、異なる波長の光の吸収度合の変化を調べることで、組織中の酸素化赤血球と脱酸素化赤血球量を計測することができます。Fig.1に酸素化ヘモグロビン(HbO2)と脱酸素化ヘモグロビン(Hb)の光吸収係数のスペクトルを示します。

光の照射点と受光点間距離が数cm程度であれば近赤外光は生体組織内で多重散乱をするので、散乱媒体中でもBeer-Lambertの光吸収の式を応用できます。また、赤色光は散乱係数が大きいために、短い距離でも多く散乱します。測定波長が互いに近接していて静止生体組織での散乱と吸収が各々の波長で等価と仮定すると、光の減衰は、酸素化赤血球(ヘモグロビン)による吸収、脱酸素化赤血球(ヘモグロビン)による吸収と、生体組織による散乱と吸収、の3要素で考えられます。従って測定には3波長の光が必要になります。
組織上のある点から波長の異なる3種類のレーザー光を組織に照射し、数cm程度離れた点に光検出器で組織を透過してきた光の強度, I, は次式のように表されます。
I = ηIo exp [( -αVo - βVd)L’ - μs L] (1)

ここで、
Ioは光の照射光強度、
ηは光システムに関わる係数、
Voは単位組織体積あたりの酸素化ヘモグロビン量、
Vdは単位組織体積あたりの脱酸素化ヘモグロビン量、
αは酸素化ヘモグロビンの吸収係数、
βは脱酸素化ヘモグロビンの吸収係数、
Lは照射点と受光点の距離、
L’ は光路長、実際に光が通った距離、
μsは生体組織の散乱係数、
です。

Fig.1 Absorption spectrum of Oxy- and Deoxy hemoglobin

Fig.1 Absorption spectrum of Oxy- and Deoxy hemoglobin

この受光強度を3波長で測定して連立方程式の解から Vo と Vd を求めます。また、検出体積内の全血液の酸素飽和度StO2は(2)式で求められます。
StO2 = Vo/(Vo+Vd)(2)
ここで求められたVo, VdとStO2は動脈だけではなく、微小循環と静脈の血液の情報も含んでいるので、生体組織での酸素消費についての情報を得ることができます。
近赤外レーザー光型のBOM-L1TRWのブロック回路図をFig.2に、BOM-L1TRSFのブロック回路図をFig.3に示します。
BOM-L1TRWにはディテクタが1つで書かれていますが、実際には2つあり、同じ回路なので略しています。
3種類の波長のレーザー光がタイミング回路によって順次出力され、光ファイバープローブを通して生体組織に照射されます。生体内で散乱され、一部のレーザー光は血液によって吸収されます。このレーザー光の一部が数cm離れたディテクタによって受光されます。受光した3波長の強度からHbO2, HbとStO2の値がCPUで(1)式に基づいて求められます。レーザー光出力の変動を補償するために、プローブにはモニター用の光ファイバーが設置されており、この受光強度が測定値の演算規格化に用いられます。ディテクタは2個あり、それぞれ深度が異なる測定値を出力し、さらに差分も出力します。

  • Fig2. Block diagram of BOM-L1TRW

    Fig2. Block diagram of BOM-L1TRW

  • Fig3. Block diagram of BOM-L1TRSF

    Fig3. Block diagram of BOM-L1TRSF

測定例

前腕にBOM-L1TRWのプローブとディテクタを4cmの間隔で貼付け、安静状態から10Kgのダンベルを持ち、約20秒後に離したときの血液動態を測定した図をFig.4に示します。ダンベルを持つとHbO2の減少、Hbの大きな増加が観測され、離した後には安静時の値に徐々に戻りました。StO2の値は安静時には約70%ですが、ダルベルを持ったときには短時間で約30%にまで減少しました1)

Fig. 4

Fig. 4

測定深度

測定深度はレーザー光の照射—受光間距離の関数です。受光強度, Id, は、散乱が強い組織でベール-ランバートの法則が適用されるときには、
Id = η・Io・ exp ( - γ・L)、

で表されます。
ここでηは光システムに関わる係数、Ioは照射光強度、γは生体組織の減衰係数、Lは光が通過する距離(光路長)です。この距離が長くなると受光強度自体は弱くなりますが、測定深度は深くなります。この理由は、距離が長くなると相対的に浅い場所から散乱された光強度と深い場所から散乱された光強度の差が少なくなるからです。Fig. 5, 6にその状態を示します。Fig. 5は照射—受光間距離が短い場合、Fig. 6は長い場合を示します。それぞれ同じ深度から戻ってきた光の通貨距離を、L1とL3、L2とL4 とします。 Fig. 5ではL2 >> L1なので、全受光量に占めるL1からの成分がL2からの成分より非常に多くなります。しかし、Fig. 6ではL3とL4は大きい差がないために、L3を通ってきた受光強度とL4を通ってきた受光強度の差が小さくなり、相対的に全受光量に占めるL4からの成分が多くなります。








1) 780nmの近赤外光を用いて(BOM-L1TRWで使用の波長)、実際に皮膚と光学特性が同様の物質(ポリアセタール)を用いたモデル実験の結果をFig. 7に示します。照射—受光間距離、d、を20, 30, 40mmとして2mm厚のポリアセタール板を重ねて行ったときの受光量を測定して最大値で規格化したときの、板厚、t、と規格化した受光量、P(t)、の関係のグラフです。特性は照射光の広がりや受光素子の検出広がり角度等によっても多少異なります。
このグラフから、照射—受光間距離が長いほど深部からの信号が多く含まれるようになることが確認できます。グラフから分かることは、測定深度は単純に ○○mm と決めることは困難です。例えば、照射—受光間距離が20mmの場合では深さが12mm程度までの信号成分が全信号成分の90%を占め、最大では17 – 18mm程度までの信号成分も含まれることが推測できます。

2) 650nmの赤色光を用いた場合(BOM-L1TRSFで使用の波長)のモデル実験の結果をFig. 8に示します。照射—受光間距離、d、を2, 4, 6, 8mmとして0.5mm厚のポリアセタール板を重ねて行ったときの受光量を測定して最大値で規格化したときの、板厚、t、と規格化した受光量、P(t)、の関係のグラフです。
Fig.7 と同様に、照射—受光間距離が広がると測定深度が深くなります。

Fig5.

Fig. 5

Fig6.

Fig. 6

Fig7.

Fig. 7 BOM-L1TRW の測定深度推定

Fig8.

Fig. 8 BOM-L1TRSFの測定深度推定


ベール-ランバート法と空間分解法

当社のレーザー組織血液酸素モニターは、血液量の測定原理としてベール-ランバート法( Modified Beer-Lambert Law)を基にしています。この方法では絶対値を得ることができず、空間分解法(Spatially-resolved Spectroscopy)では絶対値を得ることができるとの報告があります。ここではその理由について説明いたします。
ベール-ランバート法でも空間分解法でも測定している物理量はレーザー光(またはLED光)の受光強度です。生体組織に照射されたレーザー光が生体内で散乱、吸収され、照射点から数cm離れた点で受光したときの光強度です。両測定法ともに光の強度しか測定していないのに、片方の理論では絶対値が得られ、もう一方では絶対値が得られないのはなぜでしょうか。その理由は仮定の数にあります。
生体組織での散乱と吸収に関わる未知数を3つとした場合、測定には3波長のレーザー光を用います。ベール-ランバート法では下記(1)式が、3波長による方程式として3本得られます。
I = ηIo exp [( -αVo – βVd)L’ – μs・L] (1)

ここで未知数は、1)酸素化血液量、2)脱酸素化血液量、3)生体組織の散乱係数, μs, です。3種類のレーザー光の波長が互いに近接している場合には、それぞれの波長で散乱係数が等しいと仮定しています。この3本の方程式から、酸素化血液量 Vo・L’ と脱酸素化血液量 Vd・L’ が求められます。ここで光路長 L’ は不明なので血液量の絶対値が求められない、とされています。
一方、空間分解法では照射点から距離の異なる2点(r1, r2)での受光強度を測定し、その関係から血液量を算出しています(Fig.9)。
μa x μs ≈ (ΔA/Δr – 2/r) (2)

ここで μa は生体組織での光の吸収係数で、生体組織自体の吸収がなければ全酸素化血液量と全脱酸素化血液量の合計、μs は散乱係数、Aは光の減衰、Δr = r2 – r1、です3)。波長の異なるレーザーで受光強度を測定し、それらの関係から Vo と Vd を求めます。ただし、μsの値が未知であればμaは得られません。この状態はベール-ランバート法で L’ が未知数であることと同じです。しかし、空間分解法では μsの値を一定値、例えば1、と仮定し、仮定を追加しています。
生体組織では、照射-受光点の距離に比べて、実際にレーザー光が通過する距離は長くなります。これはレーザー光が受光されるまでに生体組織で何度も散乱されるためです。つまり、光路長は散乱係数の関数です。従って、μs の値をすべての測定波長で一定値と仮定することは、光路長を一定値と仮定することと同等です。すなわち、ベール-ランバート法で光路長 L’ を実際の照射点と受光点の距離の、例えば4倍、と仮定することと同じです。空間分解法ではμsの値は各波長で同じであるという仮定に加え、さらに値自体を代入するという仮定の追加により、絶対値が得られるとしています。L’に値を代入すれば、ベールーランバート法でも絶対値を得ることが可能になります。
当社製品のBOMシリーズは2受光方式を採用しております。単純に2点間の受光強度の傾きから血液量を演算するのではなく、各点での血液量を算出した後の差分から血液量を算出しています4)
仮定では、測定波長の値が互いに近接していれば各波長間での散乱は等しい、としていますが実際にはわずかな差があり、受光強度で演算するとその差による血液量測定値のオフセット,OS,が生じます(Fig.10)。従って、血液量として算出した後の差分、(V2 – V1)/(r2 – r1), を用いることでオフセット分を除いた値を得ることができます。

  • Fig. 9

    Fig. 9

  • Fig. 10

    Fig. 10

参考文献
1) 鹿嶋 進 : 近赤外光による血液動態測定、日本赤外線学会誌、20, 18, 2011.
2) S. Kashima : Model for Measurement of Tissue Oxygenated Blood Volume by the Dynamic Light Scattering Method, Jpn. J. Appl. Phys., 31, 4097 (1992).
3) S. J. Matcher: Absolute Quantification Methods in Tissue Near Infrared Spectroscopy, Proc. SPIE 2389,486 (1995).
4) S. Kashima : Spectroscopic Measurement of Blood Volume and Its Oxygenation in a Small Volume of Tissue using Red Lasers and Differential Calculation between Two Point Detections, Opt. Laser Technol., 35, 485 (2003).

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